池田の英語学習理論

学習理論

池田和弘が、最先端のものを中心に、様々な英語理論を語ります。

言語学や脳の情報処理の観点から、

効果的に学習できる方法などをご紹介します。

「人間型処理」と英語教育

2014年7月13日

英語と人間型の情報処理(=並列分散処理)

人間型の情報処理(=並列分散処理)が理解できると、

英語教育は劇的に変わり、とても分かりやすく、身に付きやすくなる。

 

なぜかというと、その理由は単純で、学習者(つまり人間)を

コンピュータ(つまり機械)のように扱わなくなるからである。

 

たとえば、コンピュータ型の学習の場合には「まずルール(文法)がある」

というところから話が始まる。言葉にはルールがある、だからルールについて学び、

それを使えるように演習すれば言葉を使えるようになる。

 

――― これが古典的な英語教育の発想である。

 

しかし、人間型学習の発想では、ルールは教えなくても自在に使えるようになる。

したがってルールを教える必要はない。

 

厳密には、私はほんのわずかルールを教える。

これは、学習を加速させるためである。

しかし、教える量はざっくりいって、従来の100分1程度で、

たとえば、“文法用語”は15語程度しか使用しない。

 

手元の文法書を見て欲しい。

自動詞、他動詞、目的語、補語、関係代名詞、先行詞・・・

などいった言葉が出て来るはずであるが、私の場合、これらの用語はひとつも使わない。

それでも、英語を正確に理解し、書くことができるようになる。

 

文法を教えないのに、文法が使えるようになる。

 

・・・このような性質を人間型学習(並列分散処理)では

エマージェント・プロパティという。

 

これは、日本語にすると「創発的性質」と訳すことができる。

規則と規則性

2014年6月28日

言葉には規則がある。つまり、文法だ。
だから、英語を学ぶ場合にも文法が大切だ。
--そう主張する人に限って規則と規則性の違いが分かっていない。

人間型学習法(つまり並列分散処理の発想にもとづく学習)では、
基本的に規則は存在しない(※)。
規則性があるのみだ。
一見、規則のように見えるものでも、
それは単にそのパターンの出現頻度が極めて高いからだけに過ぎない。

規則性は、文字通り「その傾向がある」というだけのことなので、
決まったものではない。
つまり、変化する。(規則は変化しない)

言葉の場合、この考え方はとくに有効だ。
なぜなら、言葉は変化するからである。

また、「例外」が生まれることも理解でき、
人間の学習がとてもダイナミックなプロセスであることがイメージできる。

これらすべてが、教え方や教材の作り方に影響を与える。
つまり、人間型の情報処理(並列分散処理)の視点を持つと、
同じものが全く異なる視点から見えるようになるのである。

(※)「基本的に」というのは、人間の脳には一定のプログラミングが
なされているという点を否定することは難しいからである。
ノーム・チョムスキー博士が探ろうとしたのは、おそらくこの点なのだろう。
しかし、この辺りは言語の深層部分で、
単に文法的なものというよりは脳の認識とも深く関連しているため、
英語教育においては「すでにあるもの」として扱う方がベターである。

人間の脳の働きと言葉の学習(2)

2014年6月25日

脳の働きと言語学習

人間の脳は「人間型」の情報処理を行っており、

コンピュータは「コンピュータ型」の情報処理を行っている。

 

これまで英文法について多くの議論がなされてきたが、

結局ほとんど何も変わっていないのは、この点がよく理解されていなかったからである。

 

無理もない。

 

この情報処理、つまり並列分散処理が脚光を浴びてきたのが20世紀の末だからである(※)。

 

実際、この考え方にもとづいた文法が登場したのは、1987年で、

それは「エマージェント・グラマー」と呼ばれている。

 

いずれにせよ、「人間型」の情報処理をベースにすると、

英語の学習の仕方、教材の作り方や使い方などがまるで変わってくる。

とくに、文法に関してはまったくアプローチが違ってくる。

 

「人間型」の英語教育手法は、これまでの「コンピュータ型」のやり方よりも、

はるかに分かりやすく、身に付きやすく、効果的である。

つまり、「学習者にやさしい」。

 

興味がある人には、Inside the Neural Network Revolution (William.F.ALLMAN, Bantam)をお勧めする。

発刊は1990年だが、最も基礎的で重要な点についてわかりやすく書かれており、今でも非常に参考になる。

私に「これだ!」と言わしめた記念碑な名著である。

 

 

(※)じつは、並列分散処理の歴史は、直列処理の歴史と同じぐらい長い。

しかし、直列処理がとても単純明快で、装置も設計しやすく、

かつ実際に多くの成果を出し始めたため、こちらに研究資金が流れやすくなり、

長い間、いわば「お蔵入り」されていたのである。

近年、この情報処理が注目されはじめたのは、

皮肉にも直列処理のマシン(ノイマン型マシン)の情報処理速度が飛躍的に高まったため、

シミュレーションがしやすくなったことによる。

 

ちなみに、「並列分散処理」と「並列処理」とは、言葉がよく似ていて混同されることが多いが、

後者は直列処理を多数使用した情報処理のことで全く異なる。